幾多の現場を彷徨い、回帰した「PC」という原点
鈴木氏の歩みは、効率や最短距離とは無縁の場所に geography(地勢)を持っていた。1987年に神奈川県横浜市で生を受けた鈴木氏は、高校卒業後、18歳で美容師の見習いとして社会に出る。しかし、そこでの生活はわずか1年で幕を閉じた。根性だけで食らいついたものの、力及ばず退職という挫折を味わうことになった。その後、飲食業、販売業、そして建設現場と、文字通り「現場の最前線」で汗を流す日々を繰り返す 。多種多様な職を転々とするその姿は、一見すると迷走しているようにも映ったが、その根底には常に、幼少期に刻まれた「本物」の記憶が静かに息づいていた 。 鈴木氏の父は、一人でデザイン事務所を営むクリエイターだった。一般家庭にパソコンが普及する遥か前から、父の事務所には常に最新のMacが鎮座し、最新機種が出るたびに、父が使い倒したハイスペックなマシンが自宅へと「お下がり」としてやってくる。小学生だった鈴木氏にとって、それらのマシンを弄り倒すことは、呼吸をするのと同じくらい日常的な行為だったのである 。そうした中で人生の転機は、長男の誕生とともに訪れた。家族を養う責任、そして自分の足で社会に立つという強烈な自覚。そのとき、鈴木氏が迷わず選んだのは、かつて幼い頃から慣れ親しんだITの世界だった。エンジニアとしては極めて遅い28歳というスタート。 「これからはITで生きていく」という不退転の決意を胸に、 鈴木氏は再び、未知なる「現場」へと食らいついていった。

「作業着を着るIT企業」が実現する、論理と物理の融合

2020年の独立を経て、2024年4月1日に設立された株式会社SISILLWARE。この会社を一言で定義するならば、「現場を熟知したITのプロフェッショナル」だ。一般的なIT企業のエンジニアは、ディスプレイの中に広がる「論理(ソフト)」の世界で思考を完結させることが多い。しかし、鈴木氏たちは違う。彼らは自ら作業着を纏い、腰道具を提げ、壁の裏側に配線を這わせる。ルーターやスイッチといった「物理(ハード)」的な構築までを自社で完遂する、稀有なスタイルを貫いているのだ。 「ルーターに詳しいからこそ、状況に合わせた最適なケーブルを選べる。配線の実態を知っているからこそ、確実な設定ができる」 鈴木氏のこの言葉には、建設業を含む多岐にわたる現場経験が昇華されている 。論理(ソフト)と物理(ハード)、その両輪を一気通貫で手がけることで、中間コストを徹底的に排除し、同時に圧倒的なスピード感を実現する。画面上の数字をいじるだけでなく、電波の飛び方ひとつ、ケーブルの一本に至るまで妥協なく責任を持つ。この泥臭くも精密な姿勢こそが、同社の市場における絶対的な優位性となっている 。
凄まじい「衝突」の果てに築かれた、親友との揺るぎない信頼
現在のSISILLWAREを支えているのは、鈴木氏を含めた3名の精鋭たちだ。その中には、高校時代からの親友であり、現在は営業を担う重要なパートナーがいる。彼らの絆は、決して単なる「仲良し」という言葉で片付けられるものではない。その強固な土台となっているのは、かつて共に働いた建設現場での、凄まじいまでの「衝突」であるという。 当時、二人は互いの仕事の進め方を巡り、毎日のように罵り合っていた。駅までの帰り道、激しく怒鳴り合いながら歩いたこともある。ストイックさを追求する鈴木氏に対し、世渡り上手で適応力が高い親友。対極に位置していた二人は、一度は別の道を歩むことになった 。しかし、時を経て鈴木氏が独立を考えた際、真っ先に声をかけたのは他ならぬ彼だった。最悪の状況で本音をぶつけ合い、お互いの「筋」を知り尽くした関係。阿吽の呼吸で「1を言えば10が伝わる」ほどの絶対的な信頼は、あの修羅場を共に乗り越えたからこそ成立している。今では互いの個性を尊重し、会社を成長させるための最強のタッグとして、確かな歩みを進めている。

「死を知る」哲学が描く、摩擦なき社会への加速
「SISILLWARE(シシルウェア)」という社名には、表と裏、二つの意味が込められている 。表向きは、システムインテグレーター(SI)として、土台(SILL)からしっかりと構築していくという意志の表明である。そしてその真の由来は、日本語の「死を知る」にある 。 「死を意識することは、生を、つまり自分自身を深く知ることに繋がる」 溢れかえる情報の波に飲まれることなく、自分にとって本当に必要なものは何かを見極めること 。この本質的な哲学こそが、SISILLWAREの核となっている 。 それは、仕事の進め方にも鮮明に現れている。単なる需要と供給の関係ではなく、まずは「人と人」として誠実に向き合うこと。顧客が本来集中すべき活動に専念できるよう、あらゆる不効率というストレスを取り除く、この「最適化」こそが、鈴木氏が掲げる社会貢献の形だ。 そんな同社が見据える未来は、現在のインフラ構築に留まらない。 現場感覚という最大の武器を活かし、現在はAIを活用した業務効率化ツールの開発にも心血を注いでいる 。 「技術とデザインで不効率という摩擦をなくし、社会を加速させたい」 かつて父が最新のMacで新しい世界を描いていたように、鈴木氏はネットワークとAIで、誰もがストレスなく挑戦できる「土台」を創ろうとしている。 不効率という摩擦が消えたとき、社会はどのような加速を見せるのか。 SISILLWAREの挑戦は、今、始まったばかりだ 。
