CHALLENGERS' VOICE
ものにはすべて価値がある
ブックオフグループホールディングス株式会社
代表取締役社長
堀内 康隆 Horiuchi Yasutaka

1999年慶應義塾大学経済学部を卒業後、コンサルティング会社に入社。ニューヨーク駐在を経験した後、2006年にブックオフコーポレーションへ転職。経営企画やオンライン事業を経て、2017年に代表取締役社長に就任。業績回復のため、現場主導の改革を推進し、国内外で事業を拡大。リユース市場の発展に尽力し、ブックオフグループの成長を牽引している。

https://www.bookoffgroup.co.jp/

リユース業界のイノベーター

人はモノに宿る記憶を手放すことをためらう。聴きすぎていまだにフレーズを口ずさめる音楽のCD、幼き日に遊んだゲームソフト。かつては捨てる以外に方法がなかった。新しきもののみを崇め、古びたものに宿る力を見過ごしていた世の中だったと言えよう。それらが、今では新たな持ち主の手に渡り、新たな記憶を刻み始める。これがリユースの本質であり、ブックオフグループホールディングス株式会社が長年にわたり築き上げてきた価値観だ。 中古市場は、単に「使い古し」の証ではなく、過去と現在、そして未来をつなぐ架け橋として、私たちの日常にしっかりと根付いている。そこには、物語が眠り、かつての輝きと共に、新たな物語が紡がれる瞬間がある。厳しい変化が続く中古市場の“雄”とも言えるブックオフ。彼らはただのリユース企業ではなく、まさに時代を映す鏡だ。古くから「本」の買取・販売を起点に、CD、DVD、ゲーム、さらにはフィギュアやアパレルと、あらゆる「モノ」に新たな命を吹き込むこの企業は、常に時代の最前線に立ち続けている。 その背後に力強く佇む人物がいる。堀内康隆。コンサルティングの現場で経験を積んだ彼は、2006年にブックオフコーポレーションに入社。当初実店舗中心でグループを支えていたビジネスモデルが、大小様々なネット市場や、Amazonメルカリといった新たな競争相手が急速に台頭するようになり、業績は一時期低迷の一途を辿っていたブックオフ。彼は2017年4月、苦境に立たされたグループを再生させるため、代表取締役社長としてその舵を取った。 そして誰もが見惚れるような、華麗なV字回復を達成。それはまさに「一期一会」を体現するかのように、社員一人ひとりの「想い」に耳を傾け、その中に秘められた可能性を見出したが故の、予定的な現象だった。

店内の様子

家賃約5億円削減の舞台裏

BOOKOFF×SURF

「会社は人で成り立っている」これは堀内が常に口にする言葉だ。代表就任当初、はじめに堀内は全国150店舗を自らの足で巡った。各店の自慢や可能性に耳を傾けたその旅は、単なる視察に留まらず、各地域に眠る潜在的な力を引き出すための重要な一歩であった。トップダウン経営からボトムアップ経営へ。店長たちとの密な対話の中で、堀内は「どんなに小さな声でも、その中に大きな未来の種がある」と確信し、各店舗に方針書の作成を依頼、その中に店舗のキャッチフレーズの欄を入れ、キャッチフレーズに正解はないという柔軟な指示のもと、各店舗の店長たちが店舗運営方針書の作成を推進していく。 また既存店への投資をも決断。それまでブックオフは新規出店にほとんどの資金を投じてきた。しかし店舗の潜在力を最大限に引き出すには、既存店の強みを磨く必要があった。そこで2億円の投資枠を設け、各店舗の裁量で改装や商品ラインナップの拡充を進めることを可能にした。その結果、店舗ごとの特色が生まれ、地域に根差した経営が実現した。 たとえば、茅ヶ崎駅北口店。湘南の地にふさわしい店づくりをしようと、「BOOKOFF × SURF」というロゴを置き、1階をサーフショップのように仕立てた。そのほか各地域で見られた現場スタッフの自発的なアイディアの数々は、堀内が打ち出した「現場の声を大切にする」という哲学の表れであった。その結果、店舗は活気を取り戻し、売上も回復。そして改革はやがて全国へと波及する。 それだけではない。堀内は、赤字の危機を乗り越えるため、家賃交渉という本来は数字の話に過ぎないはずの現実に、全社員の士気を高める一大改革をもたらした。全国の大家と交渉を重ね、なんと年間5億円の家賃削減に成功。その手腕は、まさに経営の現場での実践力と、信念に裏打ちされた行動の賜物である。

組織の力は“熱量”で決まる

自身の歩みの中で「人」という存在の尊さを、何よりも重んじてきたと語る堀内。ブックオフの成長の原動力には、「人財は会社の宝」という考え方、そして一人ひとりが成長し輝くことが企業の未来を形作るという確固たる信念がある。1,000名以上の社員、そして10,000名以上のパート・アルバイトスタッフ…彼らは単なる労働力ではない。各々の人生の物語を持つ「生きた財産」に他ならないのだ。堀内は彼らの声に耳を傾け、現場の“温度”をしっかりと感じ取りながら、全員で未来を創り上げるという使命感を胸に、今日もブックオフグループを牽引している。 海外展開においても、堀内は恐れることなく、アメリカ、マレーシア、そしてカザフスタンといった舞台に自社のブランドを広げた。日本の「もったいない精神」をグローバルに発信し、日本で販売に至らなかった品々が、海外で宝物となる瞬間を数多く生み出してきた。彼の挑戦は、単に事業の拡大に留まらず、文化と価値観の交錯をもたらし、世界中の消費者に今もなお新たな驚きと感動、そして次なる物語の種を与えている。 ネットの台頭、フリマアプリの登場、さらにはグローバル市場での競争。現代のビジネス環境は、常に変化の嵐の中にある。しかし、堀内はこう語る。「変化の先にこそ、未来がある」と。彼自身が現場で見つけ出した「自ら考え、行動すること」の大切さは、企業のみならず、個々の人生にも通じる普遍的なメッセージだ。

インタビューの様子

小さくても一歩を踏みしめよ

江戸時代の学者・政治思想家である林羅山は、儒学の精神に基づき、人の本質と道徳の重要性を説いた。彼は、時代の荒波の中でも自己を磨き、己の信念を貫くことの大切さを教えた。その教えは、現代においてもなお、リーダーとしての覚悟や人間としての成長の指針として受け継がれている。 羅山が残した言葉は、単なる古文書の一節にあらず。激動の時代に相応しい、己の内面を磨き上げ、真の強さと優しさを兼ね備えるための羅針盤だ。現場で日々奮闘し、未来へ向けた新たな挑戦に燃える堀内の姿は、羅山が説いた「自立自尊」の精神そのもの。過去の知恵と現代の革新が融合することで、ブックオフグループは、単なる中古市場のリユース企業を超え、未来を拓く灯火となる。 堀内代表は若者に向けて、エールを送る。「大きな一歩でなくとも、たとえ小さな一歩であっても、まずはその一歩を踏み出す勇気を持ってほしいです。」国内外、現場で感じる無数の失敗と成功の積み重ねが、やがて大きな実りとなり、人生の道を照らす光となるに違いない。

店舗外観