CHALLENGERS' VOICE
100点を目指せ
株式会社常盤製作所 代表取締役社長
加藤 寛 Kato Hiroshi

幼少期から父が営む工場に通い、短大・大学で企業経営の基礎を学んだ後、主要顧客先や海外工場で実践的な加工方法や品質管理の修行を積む。現場での厳しい経験と挑戦を経て、経営理念と技術革新に磨きをかけ、代表取締役社長就任後、常盤製作所を新たな未来へ導いている。

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日本を代表する精密加工技術

日本は、長い歴史の中で「ものづくり」という魂を磨き続け、時に荒削りでありながらも、常に革新と実践を追求してきた国である。昭和の風情を残す町工場が、現代の高度な技術と融合し、新たな価値を創出する…それが、今の日本のものづくりの隆興の原点だ。 1956年、神奈川県鎌倉市に誕生した株式会社常盤製作所は、ネジ部品の加工という小さな工房から始まり、農林業機器やガーデン機器の心臓部とも言えるエンジン周辺部品、特にチェーンソーや草刈り機の命ともいえるクラッチドラムやギアなど、精密加工の技術を武器に成長を遂げた。そんな中で、代表取締役社長・加藤は、家族の伝統を受け継ぎながらも、自らの情熱と挑戦によって事業の未来を切り拓いている。

製造部品

100点を出し続ける

作業着の背中

加藤の歩みは、まさに波乱に満ちた「生きる修行そのもの」である。幼少期、父親や先代の背中をそっと眺めながら、近所の工場を駆け回り、時には一番先頭に立って冒険に出る少年時代。家庭に流れる「いつかは継ぐべき」という宿命感と、外の世界に飛び出して自らのブランドを築きたいという熱い思い、その両極端な感情の中で、彼は次第に「ものづくり」の奥深さに気づいていった。学生時代は、ニュージーランドの青い大空の下でスノーボードに情熱を燃やし、北海道の厳しい冬に閉じこもる日々もあった。だが、どんな冒険も最終的には、父の会社に身を投じ、実際の現場で学ぶという運命から逃れることはなかった。 入社後の彼は、単なる形式的な研修ではなく、まるで魂を込めた修行のような日々を送る。主要取引先の現場に身を投じ、現実の厳しさとともに、どの部品にも命が宿るという強い責任感を学ぶ。さらには企業経営に特化した大学の学びの場を経てきた。製造現場は時に暗く、冷たい油と鉄の匂いが漂う中で、失敗が許されない世界。夜通し、わずかな睡眠の中で働く過酷な日々を体験しながらも、加藤はお客様に要求されている製品精度をすべて満たしている「100点満点」の合格品を、滞りなく出荷し続ける。そこに妥協は一切ない。加藤にとって、当たり前のように合格品をつくり続けることは使命だったのだ。その姿勢は、ただの数字ではなく、現場で働く一人ひとりの努力の結晶であり、彼自身の挑戦の軌跡そのものである。

国内シェア60%以上獲得の秘訣

常盤製作所が誇る技術力は、創業以来磨かれた精密加工のノウハウに基づく。農林業機器の中核を担うエンジン周辺部品は、国内外の市場で高い評価を得ており、特にチェーンソーや草刈り機に搭載されるクラッチドラムは、日本国内のシェアの6割以上を占めるとされる。新潟工場の生産ラインは、従来の暗く閉塞的な環境を一新し、LED照明によって明るさを増し、従業員が快適かつ効率的に働ける空間へと変貌を遂げた。さらに、作業ロボットやIoT技術、DX化やRPAの導入により、生産工程の可視化と自動化を実現、時代の最先端を走る現場づくりを推進している。 加藤は、単に部品を作るだけではなく、そこで働く人々の成長や、組織全体の「人作り」にも力を入れている。若手の採用はもちろん、外国人技能実習生や女性の積極的な採用にも取り組み、ダイバーシティを推進。現場で直接コミュニケーションを重ね、1対1の面談を通じて、各々の意見や問題点を吸い上げる姿勢は、まさに「働く場所が修行の場である」という理念を体現している。彼にとって仕事とは、単なる生計の手段ではなく、自己成長と仲間との連帯感を育む「笑顔あふれる挑戦の舞台」であるのだ。

つねに楽しく

平賀源内は、江戸時代を代表する発明家だ。「知恵は実践の中にこそ宿る」という名言を残し、ただの書物の知識にとどまらず、実際の体験や実験を通じて、新たな技術や発明を次々と生み出した。その姿勢は、加藤が現場で血と汗を流しながら、絶えず技術の向上と人材育成に努める姿と、驚くほど共鳴する部分がある。平賀源内が無名の町工場から生み出した数々の発明と、加藤が今なお挑戦を続ける常盤製作所の現場は、時代を超えて同じ精神を共有していると言っても過言ではない。 加藤はこれからも常に「100点の製品」を追求し、品質と信頼の向上に努めるだけでなく、若者たちに「ものづくりの楽しさ」や「現場でこそ輝く人間力」を伝え続けたいと考えている。彼は、自らの過酷な修行の日々や、失敗から学んだ数々のエピソードを通じて、次世代の技術者や経営者に対して、夢と情熱、そして実践を重んじる姿勢の大切さを熱く語る。若者たちには、日々の現場での努力や試行錯誤が、いつか大きな成果と自信に変わると信じ、挑戦し続ける勇気を持ってほしいと願っている。 確かに、グローバル競争は厳しさを増し、かつての栄光が色褪せたとの声もある。しかし、世界を見渡せば、精緻で高品質な日本製品への信頼は揺るいでいない。ロボットや医療機器、新素材など、時代の最前線を走る分野で日本企業は着実に成果を上げている。 かつてないスピードで変化する世界市場のなかで、日本のものづくりは新たな挑戦を続けている。そのDNAは今も脈々と受け継がれ、次の成長へとつながっていく。課題はあれど、進化への期待は大きい。日本の製造業、そして常盤製作所、その底力が今こそ試されるときだ。

インタビューの様子