最強の「縁の下の力持ち」
朝の街を歩いていると、建物の入り口で静かに掃除をしている人の姿に出会うことがある。普段はあまり意識されないが、その仕事が日常の快適さを支えていることは間違いない。掃除とは、生活の風景に溶け込みながらも、決して存在感を主張しない、まさに「縁の下の力持ち」のような営みだ。 横浜セイビの代表取締役、川口大治は、父親が1981年に創業した同社を継承した。横浜セイビはもともとワックスや掃除道具といった環境用品資材の販売からスタートしたが、やがて顧客からの要望に応じてビルのメンテナンス業務にも進出。その後2012年には、時代のニーズを敏感に察知して家事代行サービス「コピエ」を立ち上げ、事業領域を着実に広げている。 横浜市からは「横浜型地域貢献企業」認定で最上位の評価を獲得し、定期的な更新認定も継続している。また、ISO9001や倫理17000認定企業(認定番号361)、さらには神奈川県の「SDGsパートナー」、横浜市の「Y-SDGs」第1回認証事業者としても選定されている。こうした外部評価は、企業の品質と信頼性を客観的に裏付けている。

赤字の壁を乗り越えて

川口は2010年、会社設立30周年を目前に入社した。大学卒業後、ベンチャー企業で猛烈な労働環境を自ら選び、朝8時から深夜近くまで働く日々を7年間も送った。経営や海外市場に対する興味から、若手女性起業家が率いる新興企業を選んだ彼は、20代を全力疾走で駆け抜け、睡眠時間が4時間半という過酷な日々の中で自身の能力を研ぎ澄ました。彼が経営者としての道を歩む決意を固めるまでの軌跡は、単なる後継者という枠を超えた熱量に満ちている。 父親の川口会長の存在もまた、川口を象徴する重要な要素である。創業間もない頃、過労から肝臓を患い「明日死んでもおかしくない」とまで宣告されながらも、コーヒーを毎日10杯以上飲み、自己管理を徹底して奇跡的に回復したという強烈な逸話を持つ父の背中を見て育った川口。幼少期に経営者として懸命に働く父を目にし、経営という道への関心を持ち始める一方で、父親の病床での姿に強烈な印象を抱き、「自分が引き継ぐしかない」という使命感を心に宿していく。 川口が入社後に挑んだ最大のプロジェクトは2012年に開始した家事代行サービス「コピエ」だ。BtoBのビルメンテナンスを主軸としていた横浜セイビにおいて、BtoCの新たな領域を切り開くことは、社内外においても新たな挑戦だった。そこで当時、関西の先進企業である「クラッシー」を訪れ、その経営哲学を直に学び、さらには自らも現場に入りサービスの本質を掴もうと奮闘した。川口自身が結婚し、家庭を持つことで、自らの生活実感から顧客ニーズを深く理解し、事業展開を肌感覚で掴んだというエピソードは、彼の経営スタイルを象徴している。 しかし「コピエ」の展開は容易な道のりではなかった。1回の利用がわずか1万円程度という低単価のサービスは、それまでのビルメンテナンスでの年間数千万円規模の契約とは全く異なる。事業開始から数年間は現実の厳しさに直面したが、サービスを利用した顧客の満足度を何よりも重視し、品質向上と信頼獲得に徹底的に取り組むことで徐々に利用者を増やし、継続的な顧客関係を築くことに成功している。
満足したお客様こそがベストセールスマン
どれだけ技術が進歩しても、人の手による丁寧な作業や細やかな配慮を完全に置き換えることは難しい。清掃業界は今、技術革新と人間の温もり、その両方を巧みに融合させながら新たな価値を模索している。これからの清掃業界が社会の中で果たすべき役割は、ますます重要性を増していく。 現在の横浜セイビの最大の強みはまさにその「人」にある。川口は、人と人との関係性を深く理解し、それが企業成長の核であることを明確に意識している。会社のロゴにも人を中心に置き、テクノロジーが進化する中でも人間の温もりや信頼こそが最も重要だという信念を表現している。これにより、商業施設や病院をはじめとする多様な施設の管理において、数十年に及ぶ継続契約を実現し、圧倒的な信頼を獲得しているのだ。 川口の仕事へのこだわりは徹底している。「満足したお客様こそがベストセールスマンである」という考えのもと、顧客一人ひとりに向き合い、その生活に溶け込むサービスを提供している。従業員に対しても主体性を尊重し、それぞれが最大限の能力を発揮できる環境作りに注力し、企業としての持続可能性を追求している。

これからも現場第一で
哲学者ジョン・デューイは経験主義教育を提唱し、抽象的な知識よりも、具体的な経験を通じた学びを重要視した。彼は教育現場において、実際の経験を通じて得た知識こそが人間の成長を促し、社会を豊かにすると考えた。 川口は経営者として机上の理論にとどまることなく、自ら積極的に現場に出向き、サービスの最前線でスタッフや顧客と交流し、その経験を通じて事業の本質を捉えようとしている。こうした姿勢は、ジョン・デューイの経験主義教育の理念と非常に近く、川口が社員にも現場経験の大切さを常に説いていることからも明確に見て取れる。 清掃業界は単なる「清掃」という枠を超え、生活支援産業として拡大してきた。特に家事代行業界は共働き世帯の増加や高齢化の進展に伴い、年々市場規模が拡大。感染症や衛生意識の高まりを受け、消毒・除菌サービスも社会的なニーズが急増している。横浜セイビはこうした時代のニーズを的確にとらえ、社会的課題を解決する事業としてさらに価値を高めようとしている。川口代表は、これから社会に出る若者に対して、自分が納得できる道を選び、挑戦と覚悟を持って進んでほしいと語りかけている。彼自身の歩んだ道のりがまさにその体現であると言える。 川口大治という男の歩みには、常に覚悟があった。父の築いた土台をさらに高め、自らの手で新たな価値を生み出そうとする強い意志が、彼の言葉の端々から感じ取れる。横浜セイビが地域社会に愛され続ける理由は、こうした彼の姿勢にあるのだろう。彼の熱い情熱とひたむきさが、会社の発展とともに、この先も多くの人々の人生に寄り添い続けることだろう。 家事代行サービス「コピエ」公式:https://copier.jp/
