CHALLENGERS' VOICE
人と向き合うこと
きくち総合診療クリニック
理事長
菊池 大和 Yamato Kikuchi

2004年に福島県立医科大学を卒業後、浜松医科大学付属病院で初期研修を開始。以降、袋井市民病院や磐田市立総合病院で外科研修を積み、2008年には国立がんセンター東病院で呼吸器外科のレジデントを務める。2009年より湘南東部総合病院にて外科科長・救急センター長として活躍し、2016年には座間総合病院の総合診療科に勤務。2017年に「きくち総合診療クリニック」を開院。2019年に医療法人ONEを設立し、総合診療・救急医療を軸に地域医療に貢献している。

https://kikuchi-geclinic.jp/index.html

いつでもウェルカムな町の診療所

綾瀬市、水曜日の夜。ひと気のない郊外の通りは、ほとんどの店がシャッターを降ろし、明かりは消えている。だが、その中でただひとつ、ガラスのドアの向こうだけが淡い光を放っている。きくち総合診療クリニック──他が閉まる時間にも、ここだけは扉を開け続ける。

総合診療医としての矜持

院長の菊池大和(やまと)は、白衣をすらりと身にまとう。ぱっと見はごく普通の医師だが、その佇まいには揺るがぬ意志が宿っている。彼はかつて大都会の病院を離れ、「ただ一つだけのクリニック」を作ろうと決めた。「ありふれた病院じゃなくて、ここにしかない場所にしたかったんだ」と、菊池は言う。その言葉からは、最先端医療と人間らしさを同時に追い求める、彼の背中の熱が伝わってくる。

綾瀬の「灯台」

診察室のドアを開ければ、そこには静かに動く超音波機器がある。通りの向こうには町医者らしからぬ、CTスキャンやMRIの入り口が見え隠れする。大きな病院でなければ手に入らないはずの機材が、小さなクリニックの廊下に並ぶ光景は、まるで夜の海に浮かぶ灯台のようだ。緊急外来での経験から、病も人の営みも09時〜17時で区切れるものではないと知っている。深夜の子どもの喘息発作も、日曜の祖母のめまいも、この灯りの下で受け止められる。

人と向き合うこと

菊池は、自分を動かす糧を宇宙の探求に見いだすことがある。ブラックホールを「撮る」ために十年を費やした科学者たちの粘り強さ。それは彼が医療に込める、静かなる執念の鏡映しのようでもある。彼の診察には、機械的な手順を超えた「気づかい」がある。深夜にかかってくる電話にそっと応じる声の抑揚、検査前の患者の手をそっと握る、そんな小さなしぐさの積み重ねが、このクリニックの温度を作り出している。 菊池総合診療クリニックは、この国の片隅で静かに挑戦を続ける存在だ。外が闇に沈むときも、ここだけは明かりを絶やさない。ルーチンと効率が支配する医療の中で、「人と向き合うこと」を貫くために彼はこの場所を灯し続ける。もしあなたが夜道でこの淡い光を見つけたら、少し立ち止まってみてほしい。そこには、強さと優しさを併せ持つ小さな革命が息づいている。