CHALLENGERS' VOICE
“変える”か“変えない”かを選べ
株式会社コナカ 代表取締役社長CEO
湖中 謙介 Konaka Kensuke

大阪府出身。神戸大学進学後、1982年日本テーラー(現コナカ)入社。1991年取締役商品部長、1999年常務取締役、2003年専務取締役、2005年代表取締役社長を務める。自社生産・オーダーメイド事業の拡大を主導のほか、東南アジアへの本格進出などを行う。2024年サマンサタバサジャパンリミテッド代表取締役会長に就任。

https://www.konaka.co.jp/

スーツの本質とは何か?

スーツは戦闘服である。ビジネスの場において現場の人間を支える美しい鎧であり、戦略を語る言葉そのものだ。スーツ市場は、時代の変遷とともに幾度も変革を迫られてきた。景気の波が襲い、カジュアル化が進み、コロナ禍がワークスタイルを塗り替えた。かつてスーツは、社会人としての必須アイテムだった。しかし、リモートワークの増加や、より柔軟な働き方が求められる今、スーツの価値観は変わりつつある。 そんな中で、日本のスーツ市場を牽引する企業のひとつが株式会社コナカ。そしてその指揮を執るのが代表の湖中謙介その人だ。彼の経営哲学は至ってシンプル。「変えない勇気」そして「変える勇気」を持つこと。 「スーツの本質は何か?それは、お客様が自信を持って前に進めるものかどうか。それだけなんです。」湖中はそう語る。お客様に寄り添うサービス、品質への徹底したこだわり。これだけは絶対に変えない。しかし、スーツの形や販売方法は時代とともに進化すべきだと考えている。お客様一人ひとりの体型や嗜好に寄り添った提案を行い、スーツを「売る」のではなく「最適な一着を共に作る」企業へと進化し続けているのだ。

インタビューの様子

「なら自分たちで作ればいい」

インタビューの様子

湖中がコナカの代表に就任したのは、偶然のようで、必然だった。コナカは元々神戸で生まれた企業で、訪問販売を通じて成長してきた。当時のスーツは高価で、一括で支払えるものではなかった。だからこそ、給料天引きの分割払いというシステムを取り入れ、着実に顧客の心を掴んでいった。 彼は元々、社長になるとは思っていなかった。創業者一族の末っ子だった彼に、その未来は見えていなかった。しかし、ある日、前任の社長から声がかかった。「そろそろ、次に託したい」と。 意図せず経営の現場に飛び込んだ湖中は自ら学び、考え、改革を進めていった。彼がまず着手したのは、商品企画の内製化だった。従来の小売業は、問屋から仕入れた商品を売るだけだったが、それでは価格競争に巻き込まれ、独自性を打ち出せない。ならば、最初から自分たちで作ればいい。 SPA(製造小売)とは、小売業者が商品企画から製造、販売までを一貫して行うビジネスモデルである。中間業者を省くことでコストを削減し、迅速に市場のニーズに対応できる。コナカでは、独自のブランドやオーダーメイドシステムを活用し、消費者に最適なスーツを提供する。湖中が主導したこの戦略により、品質を維持しながら価格競争にも強くなり、差別化を実現。SPAの導入は、コナカが独自性を確立し、市場での競争力を高める大きな要因となった。

時代を読み解く技術とは

コナカが誇る強みは、変わらない品質とサービスだ。どれだけ時代が変わっても、服を選ぶ瞬間の高揚感や、新しいスーツを着た時の自信は変わらない。湖中はその本質を見極め、企業の方向性を決定している。 「我々はお客様の目を見れば、何が必要かは自ずと分かります。」彼が現場を大切にする理由は、ここにある。本社の指示ではなく、実際にお客様と向き合うスタッフの声がすべてなのだ。スーツは既製品とオーダーメイド、両方の特性を活かしながら、お客様に最適な一着を届ける。それが、コナカの使命であり、湖中の信念である。 そして次にコナカが挑むのは「多様性」だ。スーツはフォーマルウェアから、より自由で選択肢の多いファッショナブルなものへと変化しつつある。ビジネスカジュアルの導入、オーダーメイドの需要拡大、オンラインとリアル店舗の融合。変化する時代に合わせて、柔軟に適応していく。 「一歩下がって考えることも、時には必要です。」湖中が大切にする言葉のひとつだ。リーダーは、目の前のことだけにとらわれず、全体を俯瞰し、自分たちにとって今、本当に重要なものは何なのかをも、見極めなければならない。

スーツ

「変える勇気」と「変えない勇気」

唐代の詩人・白居易は庶民の目線に立ち、詩を詠んだ。彼の代名詞とも言える「長恨歌」や「琵琶行」は、誰にでも理解できる言葉で書かれ、世の中の真理を伝えた。彼の詩には、「本質を捉える力」、そして「普遍性」がある。 それは、湖中の経営哲学とも重なる。「商売とは、ただ商品を売ることではない。お客様の心を動かし、長く愛されるものでなければならないんです。」湖中の言葉には、まるで白居易のような真摯な思索がある。人が何を求め、何に共感するのか。それを考え抜くことで、コナカは時代を超えて支持され続ける。 スーツは単なる衣服ではない。それをまとう者の意思を表す表現道具であり、時には決断を下すためのスイッチでもある。だが、その装甲を脱ぎ捨てる時代が訪れているのかもしれない。今やスーツは「着なければならないもの」ではなく「選ばれるもの」になった。 湖中謙介は、その変化を静かに見つめながらも、ただ受け身でいるわけではない。彼は「変える勇気」と「変えない勇気」を両手に握りしめ、市場に立ち続ける。 変化を恐れない者だけが生き残る。しかし、根幹まで揺るがせばすべてが崩壊する。湖中の経営哲学は、白居易の詩のようにシンプルで、誰にでも分かる言葉に収まる。「お客様第一」。結局、それに尽きるのだ。

湖中社長