ドラッグストア業界の革命児
アメリカの石油業界に革命をもたらしたジョン・D・ロックフェラーは、ただ事業を拡大するだけでなく、業界全体の構造改革を進め、効率性と持続可能性を追求してきた。株式会社クリエイトエス・ディーも、ドラッグストア業界における変革の時代を切り拓いたロックフェラーのオーラを感じさせる存在といえよう。日本のドラッグストア業界において地域密着型の経営を推進し、効率性と持続可能性の観点から新たな価値を提供し続けてきた、まさに神奈川のスタンダード・オイル社である。 現在の代表取締役社長である瀧屋幸彦代表が率いるクリエイトエス・ディーは、1983年に創業され、以来、神奈川県を中心にドラッグストアと調剤薬局を展開してきた。同社は現在、約800店舗を有し、ドラッグストア売上高において神奈川県内で約40%のシェアを誇る。瀧屋代表はこのような業績を支えるリーダーとして、地域社会と企業とのつながりを重視した経営をおこなっている。

予測不可能な現場で上げ続ける成果

瀧屋代表の出身地は青森県。高校卒業後、上京しピップ株式会社でキャリアをスタートした。顧客ニーズの多様性や市場の変化を肌で感じながら成長したと瀧屋代表は語る。 その後、創業者のスカウトを受け株式会社クリエイトエス・ディー(以下、クリエイト)前身である有限会社みどりドラッグストアへの転職を決意する。その背景には、ドラッグストアという新しい業態への期待と挑戦心があった。 瀧屋代表が入社した当時、ドラッグストア業界はまだ黎明期にあった。薬局が主流だった時代において、クリエイトSDはアメリカのスーパードラッグストアのビジネスモデルを参考に、店舗展開と効率性の向上を追求した。同じ地域内に複数店舗を配置する「ドミナント出店戦略」はその象徴であり、これにより物流効率やブランド認知度を大幅に向上させることに成功している。
徹底した現場主義と謙虚さ
クリエイトの社是である「謙虚」は、瀧屋代表の経営哲学の中核を成している。同社では「お客様第一主義」を掲げ、顧客満足度の向上を最優先事項とする企業文化が根付いている。その具体的な例として、パートナーやアルバイトを敬意を込めて「パートナーさん・アルバイトさん」と呼ぶ慣習が挙げられる。このようなコミュニケーションは、社員間の信頼と尊敬を深め、業務効率を高める重要な要素となっている。 さらに、クリエイトSDは現場主義を徹底。店舗スタッフを顧客に最も近い存在と捉え、その働きが最大限に発揮されるよう、本部スタッフは店舗の支援に専念する体制を築いている。このような「店舗支援型の本部」という発想は、企業の競争力を強化する独自の取り組みとして注目されている。特徴的な施策の一つが、EDLP(エブリデイロープライス)。この戦略は、特定のセール日を設けるのではなく、常に安定した価格で商品を提供することで顧客の信頼を獲得するというものだ。これにより、店舗運営の効率化や在庫管理の最適化が図られるだけでなく、従業員にとっても働きやすい環境が実現している。 もう一つのクリエイトSDの魅力、それは地域社会との連携だ。クリエイトSDは「お子様ぬりえ販促」など、地域住民との接点を大切にした取り組みを行っている。この企画は、地域の子どもたちに店舗で塗り絵を楽しんでもらい、完成した作品を店内に掲示するというものだ。これにより、家族全員がクリエイトを身近な存在と感じ、結果的に店舗への親しみが生まれる。実際、塗り絵販促を通じて店舗を訪れた子どもが、大人になってからクリエイトSDへの入社を希望した事例もある。地域住民との深い絆が、企業の持続可能な成長に繋がっている好例と言えるだろう。 瀧屋代表はインタビューで次のように語っている。「私たちは地域のお客様の日々の生活を支えることを最優先に考えています。だからこそ、駅前だけでなく住宅街や郊外にも店舗を構え、地域の方々により近い存在でありたいと思っています。」

「規模の拡大を目的としない」経営戦略とは
瀧屋代表は「変化対応業」としての小売業の本質を深く理解している。コロナ禍を経て、生活様式や購買行動が大きく変化する中、クリエイトSDは調剤薬局の併設や食品の品揃えの充実を進め、地域住民の多様なニーズに応えようとしている。 また、特筆すべきはM&Aに頼らない成長戦略である。その理由について瀧屋代表は「企業文化を守ることが最優先であり、規模の拡大が目的ではない」と明言する。この姿勢は、地域密着型戦略と相まって、同社の持続可能性を支える重要な柱となっている。 クリエイトSDを「地域の総合ヘルスケアサポート企業」としてさらに成長させることを目指している代表の瀧屋。地域住民にとって、調剤薬局やドラッグストアが単なる購買の場ではなく、未病から治療、介護までを支える存在になるよう、挑戦を続けるという。「私たちは謙虚さを忘れず、お客様・患者様のために何ができるかを常に考え続けます。その積み重ねが、地域と共に歩む企業としての未来を切り開くのだと思います。」瀧屋幸彦というリーダーの存在は、顧客中心主義や謙虚さがいかに企業の成功に寄与するかを示す、現代の好例と言えるだろう。
