CHALLENGERS' VOICE
“なぜ”そうなのか考え抜け
医療法人社団都筑会 理事長
吉岡 範人 Yoshioka Norihito

千葉県出身。聖マリアンナ医科大学医学部卒業後、同大産婦人科で研鑽を積む。前院長の病状に伴い「つづきレディスクリニック」を継承。2025年1月には「関内レディスクリニック」を立ち上げ、医療法人都筑会理事長として3拠点の産婦人科・訪問看護ステーション・コンサルなど多角展開。「失敗を諦めない」理念で挑戦を続けている。

https://www.tsuzuki-ladys.com/

挑戦したまま終わらせない

横浜の一角にある「関内レディスクリニック」の扉を開けると、穏やかな照明やモダンな内装が目に入る。だが、その奥へ足を踏み入れれば、単なる医療機関の枠を越えて事業を広げる人物がいることに気づくだろう。 医療法人社団都筑会の理事長・吉岡範人。産婦人科の医師でありながら、訪問看護や居宅サービス、ECサイトの立ち上げ、さらにはコンサルティングまで行う稀有な経営者である。 週7日・24時間対応という異次元のハードワークを貫きながら、「失敗を失敗のまま終わらせない」という独特の信念で現場を切り盛りする姿は、従来の医療人像からは大きくかけ離れているように見える。実際、彼のもとには収益が伸び悩む病院やクリニックから「何とかしてほしい」という依頼が相次ぐ。通常であれば敬遠しがちな厄介事でも、彼は躊躇なく飛び込み、自らアドバイスとサポートを行いながら、地道に改善を重ねて成果を上げていく。本人に言わせれば「失敗は日常茶飯事」だが、そこで諦めないのが肝心なのだという。

インタビューの様子

気持ちに正直な経営者

院内の様子

吉岡本人は、千葉県出身。聖マリアンナ医科大学で産婦人科を学んだ後、先輩医師との縁から「つづきレディスクリニック」に迎えられた。それまで20年以上クリニックを支えてきた前院長が病気で退くなか、「若い自分が引き継ぐのは荷が重い」という迷いも一瞬あった。しかし、持ち前の行動力と粘り強さで周囲との信頼関係を築き、気づけばグループ全体を取り仕切る理事長となった。 吉岡が最も大事にしているのは「失敗を諦めにしない」という姿勢だ。検査結果に問題がなくても症状が消えない患者がいれば、治療法を何度でも切り替え、改善が見られるまで試し続ける。「それは医療の枠を超えて、経営の面でも同じ」と彼は言う。実際、大学の産婦人科に勤務していたころから、婦人科腫瘍のみならず周産期や思春期のがん、不妊分野まで多岐にわたる診療をこなし、さまざまなケースで試行錯誤を重ねた経験が土台になっている。 特筆すべきはその“働き方”と言っていいだろう。先述の話は嘘八百でもなんでもない。週7日、夜間対応も辞さないのだ。眠気や疲労があっても、新しいアイデアや患者の声に向き合っている時は「しんどいと思わない」という。山梨のクリニック再生を支援した際も、オンラインでスタッフの話し方を細かく指導し、一人ひとりの能力を丁寧に引き出すことで短期間で成果を出した。「小さいアクションを積み重ねることが最終的な飛躍につながる」と、地道な改善をいとわない。その一方で、自宅を空ける日が多くても「やりたいと思うことは諦めたくない」と笑う様子からは、“情熱”という言葉だけでは形容しきれないエネルギーが感じられる。

MBA顔負けの鬼才

現在の主な事業は、クリニックの運営、ECサイトでの低用量ピル提供、医療機関の経営再生コンサルティングの三本柱だ。吉岡自身は「すべて感覚で進めている」とさらりと言うが、よく見るとハイレベルなマーケティング理論に適っている点が多数ある。例えばリーン・スタートアップやMVPアプローチを体現しているのは間違いない。特に病院再建のケースでは、大きな投資をする前に“話し方”や“オペレーションのちょっとした工夫”といった小さな単位を検証・改善しながら成果を伸ばす。一度の試行に終わらず、成功するまでトライを続ける姿勢は、まさに「実践→検証→修正」を繰り返すリーン思考そのものだ。 さらに、吉岡の強みは「医師免許を持つコンサルタント」というその希少性にある。経営のフレームワークを医療の現場目線で落とし込めるため、他の専門家が手を出しにくい領域を開拓している。まさにブルーオーシャン戦略の体現者だ。その強みの基盤として、産婦人科の知見だけでなく、経営者として幅広い分野での“トライ&エラー”を積んだ経験が支えになっている。本人は「日々の失敗の積み重ね」と言うが、その裏には理論だけではなく、患者やスタッフのリアルな課題を掘り下げる姿勢がある。 スタッフとのかかわりも特徴的だ。彼は「教育」という言葉を嫌い、必ず「同じ目線で協働する」ことを大事にしている。例えばパソコン操作に長けたスタッフがいれば、その人にシステム管理を一任。苦手分野は他がカバーし合い、結果として全体のクオリティを高めているのだ。それを支えるのは「頑張る人が報われるよう、給与や福利厚生をアップさせる」という吉岡の明確な方針にある。家族とレストランに行く機会を提供したり、スタッフ自身がリフレッシュできる仕組みを整えたりと、組織を維持する手腕にも舌を巻く。

受付

“なぜ”そうなのか考え抜け

彼はいつも、「なぜそうなっているのか」を考え抜き、つねに自分に落とし込む努力を惜しまない。どんなに失敗しても諦めず改善し続ければ成功の糧となる、というのが彼の信念だからだ。 「拙速は巧遅にまさる」これは安田財閥の創始者・安田善次郎が残した言葉とされる。完璧を期して時間をかけすぎるより、まずは荒削りでも行動し、そこから得た知見をもとに修正・改善を繰り返すほうが最終的には大きな結果を得られるという意味だ。吉岡の姿勢を思い起こせば、まさにこの言葉を体現している。 安田善次郎が金融から保険、証券へと多角化を図り、得た資産を社会へ還元していったように、吉岡も医療のみならずECやコンサルなど異なる分野へ進出しながら、周囲と協力し合い社会の課題解決に貢献している。多忙を極める中でもスタッフが活躍できる場を整え、家族ぐるみでサポートする姿勢は「皆を幸せにしたい」という利他的な思いの表れに他ならない。 この先、吉岡が「女性が一つのビルに行けば全てが完結するような大型施設を作りたい」と語るように、彼の頭の中にはまだまだ数多くの“やりたいこと”が詰まっている。そのビジョンを「大風呂敷」と笑う人もいるかもしれない。しかし、「実際に動き出すことでしか生まれない成功が間違いなくあります。」と彼は言う。 吉岡範人。その行動力は単なる“頑張り”という言葉では表現しきれない。結果的に医療界の常識を変えるような大きな成果を残すのか、あるいは新たな分野にまた挑むのか。いずれにしても、彼の“失敗を諦めにしない”エネルギーに満ちた旅はまだまだ終わりそうにない。

インタビューの様子